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映画『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』から見る、アニメの心理表現

 京都アニメーションYouTubeチャンネル「京アニチャンネル」にて、8月4日に劇場で上映される『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』を記念し、

響け!ユーフォニアム』シリーズ劇場3作品のプレミア公開が7月28日から3夜連続で行われている。28日には『劇場版 響け!ユーフォニアム~北宇治高校吹奏楽部へようこそ~』が、29日には『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』がプレミア公開された。そして今夜30日の21時からは、『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』がプレミア公開される(3作品ともアーカイブ配信は8月1日の18時まで)。

【期間限定】劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~ 本編配信

 本稿は、私が大学時代に授業でレポートとして提出したものとなる。その授業では、上映されている映画を映画館へ観に行き、1回の鑑賞でレポートを書くというものだった。つまり、本稿は『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』を1回の鑑賞で書いたものとなる。そのため文章が拙いが、お手柔らかにお願いしたい。(本稿はnoteにも掲載している)

 以下、ネタバレを含む内容となっている。

部員たちそれぞれの思い

 物語最後の関西大会のコンクールでの演奏シーンは、コンクールを生でみているかのような感覚になり、思わず映画の中で拍手をしている観客たちと同じタイミングで拍手をしそうになるほどであった。コンクールは、「全国大会金賞」を目標に掲げ頑張ってきた部員たちにとって目指してきたものであり、関西大会から全国大会への切符をつかむことのできる大事な場面である。そして、映画の中での物語の集大成となっている。部員たちが乗り越えてきたこと、それぞれの思いがコンクールシーン前までに描かれており、その物語を見てきたからこそ、それぞれの思いが演奏に現れていることがわかり、そこも思わず拍手をしそうになった要因である。

 映画『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』は、武田綾乃原作の小説であり、本映画は、小説『響け!ユーフォニアム北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』を原作として描かれている。また、昨年に公開された映画『リズと青い鳥』(2018年)も同小説を原作としており、『リズと青い鳥』は鎧塚みぞれ(種崎敦美)、傘木希美(東山奈央)を中心とした物語となっているが、『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』は、テレビアニメ「響け!ユーフォニアム」シリーズの主人公、黄前久美子黒沢ともよ)を中心とした物語となっている。

 物語の概要はこうだ。テレビアニメシリーズでは一年生だった久美子が二年生へと進級し、久美子たちの後輩となる一年生が入部してくる。久美子のいる低音パートには、久石奏(雨宮天)、鈴木美玲(七瀬彩夏)、鈴木さつき(久野美咲)、月永求(土屋神葉)の四名が入ってくるのだが、久美子が「面倒くさいな、一年生」と言葉を吐き出してしまうほど、一筋縄ではいかない者たちであった。面倒くさい一年生たちは、次々と問題を引き起こしていくのだが、一年生や部員たちそれぞれが内に秘めている思いを乗り越えて、「全国大会金賞」へという思いを一つに全国大会を目指していくという物語である。

言葉と心情だけでない、心情描写

 思いは言葉にしなければ多くは伝わらないが、顔の細かい表情で伝わってくることもある。だが、表情だけで思いを読み取るということはなかなか難しいことで、容易なことではない。しかし、『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』では、場所、背景の使い方で、キャラクターたちの表情、キャストの演技だけではない心情描写をしているのではないかと考えた。たとえば、サンフェスの練習時、学校内のグラウンドでの場面だが、奏が久美子に対し、「さつきと美玲、どちらが好きですか」と投げかけたとき、フェンスと木の奥に、奏と久美子が描かれていた。奏の質問の意図、思いが見えないかのように、フェンスで二人の様子は見えにくくなっており、二人の考えが違っているかのように、二人の間には木が立っていた。このように、この場面では場所の使い方によって、思いが目に見えてわかりやすくなっていると考えることができる。

陰影や天気による心理描写

 京都アニメーションのアニメーションは、実写をみているかのような感覚になることの多い、実写に近いアニメーションであるが、前述した、場所、背景の使い方はアニメ的表現だといえるだろう。本作品ではそのことは、特に、第一にサンフェス本番直前時の美玲のシーン、第二にコンクール出場メンバーオーディションの日に奏の思いが見えてくるシーンに現れていると考えた。前者のシーンでは、人付き合いの苦手な美玲がサンフェスの本番直前にやめると言い出し、逃げた後を奏と久美子で追いかけたのだが、美玲が一人泣いていた。その場所は、周りに倉庫があり、行き止まりとなっていて影ができていた。そして、奏が美玲の心の内を見透かして核心をつき、美玲の心の影が見えてきたのだ。この時、久美子は美玲と奏には近づかずに離れたところにいたのだが、久美子には光があたっており、美玲に対し明るい言葉を投げかけていた。上から美玲、奏、久美子の様子がみえたとき影と光で分かれている様子がはっきりと見える。そして美玲は、久美子の投げかけてくれた言葉に自身が変わろうと思い、影から光の方へ出ていくが、納得のいかない顔をしていた奏は、影の中にいたままそのシーンは終わっている。このシーンから、影と光で三人の心の様子が現れていると考えることができる。

 また、後者のシーンは、コンクールメンバーを決めるオーディションの時、奏は同じくユーフォニアムを担当する三年生の中川夏紀(藤村鼓乃美)にコンクールに出てほしいからと実力を抑え演奏をしていたのだが、その演奏が夏紀のもとまで聴こえていた。今まで低音パートで一緒に練習をしてきたので、夏紀には奏が実力を出し切って演奏をしていないことがわかり、オーディションを中断させた。雨が降る中、屋根のある渡り廊下の突き当りで夏紀が奏に「そんなことしてほしくない」と思いをぶつけるが、奏の本心はみえないでいた。その場所は普段から日が当たりづらいので暗い場所なのだが、雨が降っているため曇っており、さらに暗くなっている。その場面から、奏の見えない心と、暗くなりあたりが見えづらくなっている場所が結びついていると考えた。実は、奏は中学生のとき、実力でコンクールのメンバーに選ばれたのだが、大会では結果が残せなかった。そのことで周囲から「だったら三年生が出ればよかったのに」と言われ、その言葉がずっと心の中に残っていた。そのため、奏は中学生のときと同じ状況になりたくなく、夏紀に出てほしいと思っていたのだ。奏の本心が明らかとなった後、逃げる奏を久美子が追いかけ、二人は走りながら本音をぶつけ合うのだが、言葉を勢いよくぶつけるかのように、二人は勢いよく走っている。久美子は逃げる奏に対して語りかけるのだが、その思いが奏に伝わり、奏の心に晴れ間がさしたとき、今まで雨が降って厚い雲がかかっていたのだが、その雲から晴れ間がさした。このシーンから、場所、背景(天候)が奏の心理状況と結びついていると考えた。そして、実写映像では天候を操ることは容易ではないため、アニメーションだからこそできる表現方法なのではないかと考えたのだ。

石原立也の他作品での表現方法

 『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』で監督を務める石原立也と、脚本を務める花田十輝は『映画 中二病でも恋がしたい!-Take On Me-』(2018)でも監督、脚本を務めている。この作品で私は、主人公である富樫勇太(福山潤)への好きだという思いが、ヒロインである小鳥遊六花内田真礼)の心の中であふれ、流れていくシーンでの雲に着目した。そのシーンまでに映っていた雲は動かない、ただの背景としての雲として描かれていた。だが、今まで動かなかった雲が、六花の心の中で勇太への好きだという思いがあふれ、流れていくシーンで、風車が回るほどの風を受け、雲が流れていったのだ。このことから、六花の思いと、雲の流れのシーンの結びつきは、前述したアニメ的表現と一致しているといえる。つまり、この表現方法は石原が多用している表現だということがわかる。

我々の意識

 物語は何が起きるのかがわからないので、我々は次に起きるアクションへのリアクションを準備できるわけではない。そのため、場所、背景などがキャラクターの思いと結びついていることでキャラクターの思いに既視感があり、自然とキャラクターの思いを受け取りやすくなっていると考える。

 テレビアニメ「響け!ユーフォニアム」シリーズは第三期の制作が決まっており、映画のラストのシーンでは久美子が「部長」と呼ばれているシーンが流れていた。第三期では久美子が三年生となった話が中心として描かれるため、「面倒くさいな、一年生」と久美子に言われていた一年生たちは二年生になるわけだ。その一年生たちは、どんな二年生となったのか。成長をみることができるのが、楽しみである。


 

【参考文献】

『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』パンフレット

映画

石原立也『映画 中二病でも恋がしたい!-Take On Me-』松竹、2018年

Web

『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』公式サイト〈http://www.anime-eupho.com/〉、(アクセス日:2019/06/09)